共通テストの国語(28) 古文──和歌の解釈②
さて、急ぎ共通テスト第3問古文、和歌のコツである。2021年度(令和3年度)共通テスト国語 第1日程 第3問『栄花物語』の和歌を1首ずつ検討している。この年は本文に4首、問題文に1首、計5首の和歌が含まれており、うち3首が直接の出題対象となっている。
こういう和歌を含んだ典型的な物語文が出ると、翌年は軍記物とか江戸の随筆とか、ぜんぜん違う傾向の本文が出ることも多いのだが、共通テストを受ける受験生に「和歌対策」は無駄にはならないでしょう。
旧帝大医学部2次試験で国語がある受験生諸君も、和歌はとりあえずおさらいしておこう。どこかで役に立つかも知れないぞ。
一般的な国立理系、また国公私立問わず文系の諸君にも、この辺の「コツ」は多少は役立つはず。どうか活用してほしい。
さて、妻を失った藤原長家(中納言殿)に、進内侍が弔問のため贈った1首目、
契りけん千代は涙の水底に枕ばかりや浮きて見ゆらん
は、逐語訳を加えて掛詞の部分に意味を補うと、
夫婦の縁を結んで過ごそうと誓った千年は(もはや)なきものとなってしまったため、涙の水底に枕ばかりが浮いて見えているほどの悲嘆(憂鬱さ)に浸っておられることでしょうか
ぐらいの現代語訳がつけられる。
(問題の本文でわざわざルビを振ってある「水底(みなそこ)に」を「皆、そこに」という掛詞と読むことはできないか…という質問があるかもしれない。ないとは言えないが、その掛詞を訳に反映させても「顕著な意味の二重化」は成立しないように思える。「掛詞の使用によって、まったく違った意味がホログラムのように浮き出てくる」ことが、そもそも掛詞を使う意義なのだから、解釈が大きく変わらないような掛詞は「たまたまダジャレになっている」だけで、詠み手の意図からは外れていると考えていいのかもしれない。)
さて、掛詞によって見えてきた意味を補ったら、次は前回紹介した解釈の手順によって、
③主語など、省略されている情報を補う。
をやっておこう。これは、この和歌の場合は分かりやすい。進内侍が中納言殿に贈った和歌なのだから、
(あなた=中納言殿が奥方と)夫婦の縁を結んで過ごそうと誓った千年は(奥方の逝去によって、もはや)なきものとなってしまったため、目下、あなた=中納言殿は、涙の水底に枕ばかりが浮いて見えているほどの悲嘆(憂鬱さ)に浸っておられることでしょうか(と、わたくし=進内侍は心配しております)。
というような感じだろう。
古文が「訳せるのに分からない」原因というのは、この「省略情報の多さ」である。特に動作の主語が省略されている(人名や他人を指す言葉を軽々しく口に出すことがはばかられるという、武家の諱〈忌み名〉などにも表れた言霊信仰ゆえだろう)ことが、古文を分かりにくくしている。
が、「主語」というのは近代ヨーロッパの言語から逆輸入された、かなり新しいアイデアで、古代には、ヨーロッパでも主語の概念はけっこうあいまいである。
だから毎回、動作をしているのが誰なのかを必ず考えて主語を特定し、省略されている助詞や「~(する)こと、人、もの」などの体言を補う必要がある。それらの情報を補てんして初めて、古文は「意味が通じる」ようになることを忘れないようにしよう。
次に、
④「作者の視点」を考え、いつ、どこで詠んでいる歌か考える。
これはしばしば、和歌の意味をつかむために最も重要な検討事項なのだが、この和歌の場合は非常に簡単。進内侍が、物忌の最中に悲嘆にくれる中納言殿の姿を想像しながら、自分の居所で詠んでいる和歌である。
⑤「何をテーマにし」「どのような気持ちで詠んだ」歌なのかを考える。本文に補足情報がある場合は、その情報を参照しながら考える。
これも簡単だ。妻を亡くした中納言殿の悲痛な心情を、何もできない身ながら傍で痛々しく思いやりつつ詠んだ歌である。本文に描かれた状況からすぐに分かるので、検討のサンプルにならないくらい分かりやすい。
⑥どうしても不明な語句があり、解釈の手がかりがつかめない場合は、問題の選択肢に示された現代語訳からからさかのぼって考える。
①~⑤の手順で解釈しても、どうしても分からない箇所が残るような難しい和歌も、もちろん出題されることがある。その場合は「選択肢の現代語訳」をいきなり参照して単語や表現の意味を推測した上で、①~⑤の手順をもう一度やってみると、和歌の意味として不自然でない選択肢が見つかる。今回のこの和歌は、⑥までやる必要はないようだ。
さて、こんな風にして和歌を「料理」できれば、比較的細かく意味を解釈し、味わうことさえできるようになってくる。特に掛詞の使い方がうまい和歌は、掛詞が示す豊かな連想によって内容が広がっていく感じがするので、初めは古典和歌を毛嫌いしていた受験生諸君も、和歌ってくるとハマるかもしれないぞ。
本文にはあと3首、問題文に1首の計4首が残っているが、これらも共通テストまでに片付けよう。