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共通テストの国語(19) 選択肢の絞り方③──2択からの絞り方 (2)

2023年10月12日 勉強方法

2021年度(令和3年度)共通テスト第1日程・国語 第1問 香川雅信『江戸の妖怪革命』「問4」の選択肢の検討、続きである。「妖怪の『表象』化」とは、どういうことかという問題だったが、「表象」という難しめの用語の意味をつかまなければならないので、この種の語にアレルギー反応を示す受験生にはツラい。①と④の選択肢は、すでにダメダメだということが分かった。

次は③の選択肢である。

「③ 妖怪が、伝承や説話といった言葉の世界の存在ではなく視覚的な形象になったことによって、人間世界に実在するかのように感じられるようになったということ。」

これもダメだということはお分かりだろうか。やはり赤字部分が違う。ダメ率41.1%。ほら、選択肢がダメだと判定しにくくなればなるほど、だんだんダメ率が小さくなっていくでしょう。

この選択肢はちょっといい見本になる。前半の「伝承や説話といった言葉の世界の存在ではなく視覚的な形象になった」は、14段落の冒頭近くの表現とほぼ一致する。また「人間世界に実在するかのように感じられる」という選択肢の後半は「リアリティ」の言い換えとなるし、第15段落「リアリティの領域から切り離されてあった妖怪が、以前とは異なる形でリアリティの中に回帰する」の部分と、なんだかよく分からないけれど一致するように見える。

が、受験生諸君、よく読もう。妖怪が「リアリティの中に回帰」した──すなわち、ふたたび人間にとって実在するかのように感じられるようになったのは「近代」の話であって、16段落にあるように「妖怪は人間の心の中にいる」というような意味でのリアリティを、妖怪が新たに帯びるようになった、ということである。

妖怪が視覚的形象によって特徴づけられるような「表象」となったのは、ひとつ前の時代である近世中期の話である。そのような「表象としての妖怪」は、さらにそれ以前、神霊からの言葉を伝えるものと受け取られていた当時には有していたリアリティを失い、フィクショナルな存在となった、と14段落に書いてある。

だから選択肢③のように、「視覚的形象になった」妖怪は、リアリティを獲得したのではなく失ったのである。つまり、「人間世界に実在するかのように感じられるようになった」のではなく、その反対である。

文章全体を通じて、妖怪のリアリティについて「民間伝承の中でリアリティを持っていた近世中期以前」→「フィクションとしてリアリティを失った近世中期」→「人間の心の中の存在として、再びリアリティを獲得した近代」という3つの段階が考えられていることに注目しよう。

この③の選択肢は、前半が本文の表現を(ツギハギ的にではあるが)使っている。そして、後半は本文中の「リアリティ」という語の言い換えになっている。

こういう要素があると、前半に着目する受験生は「本文で言っていることに即している」と誤読するし、後半に着目する受験生は「文中の表現を別の言い方で詳しく説明している」と喜び、ともに本文との一致ばかりに目が向いて、ふたつを合わせるとまったくトンチンカンな内容になっていることに気づかないかもしれない。

「本文の表現を言い換えていたら正解」「本文の表現をそのまま使っていたら不正解」というように、単純に割り切って選んでもいけないのである。

この選択肢の正誤を検討するには、特に妖怪の「リアリティ」の3段階による変遷という、本文の根幹部分を読み取れていないといけない。本文をキチンと読んでいない邪教「ヨマヌ真理教」の信者は、早とちりしてこの選択肢に誘導されるかもしれない。その場合、2択でなく3択になっている時点で、少しは「おかしい」と思った方がよい。

さて、残る選択肢は2つだ。こんなに密に検討しなくとも、残る②と⑤の間で②が正解だ、というのは割に直感的にも分かるかもしれない。

が、とにかく直感的に選んではダメである。必ず根拠を持って選ばないと、罠にはまる。どうやら正解っぽいな、という選択肢が浮かび上がってきても、すぐに飛びつかないことだ。その選択肢はあくまでも「保留」として、2択で残ったもう一方が間違っている根拠を探す。

本問で言えば、②の選択肢、

「② 妖怪が、神霊の働きを告げる記号から、人間が約束事の中で作り出す記号になり、架空の存在として楽しむ対象になったということ。」

…これは「表象」「フィクション」「娯楽」などのキーワードをまったく使っていない。それらを、いずれも本文中のやわらかい表現で置き換えてあるが、果たしてそれらの表現のつながり具合はいいのか。「へたにキーワードを散りばめていない選択肢は正解の可能性がある」という見本にはなりそうだが、それでも分からない。罠かもしれない。

だから、すぐに飛びつかずに、当座は「キープ」にしておくのである。

ここでまた紙数が尽きてしまった。いいところで次回につづく。