共通テストの国語(10) 速く読む方法➉:まとめと本番での読み方
前回まで見本として引用した、旧センター試験2018年度本試験の国語第1問(現代文・評論)の「やや難しい部分」に「和文和訳」を施すと、例えば次のようになるだろう。引用の都合上、原文の翻訳する部分のみ掲げる。
世界は多義的でその意味と価値はたくさんの解釈に開かれている。世界の意味と価値は一意に定まらない。A 講義というような、学生には日常的なものでさえ、素朴に不変な実在とは言いにくい。
(有元典文・岡部大介『デザインド・リアリティ──集合的達成の心理学』より)
次に、わたくしQ氏の「試訳」。
自分をとりまく環境や、自分と他者および事物との関係に対して、ひとはさまざまな見方をすることができ、それら周囲の世界がもつ意味と価値については、ひとが自由に、いろいろな解釈をしてよいものなのである。周囲の世界がもつ意味と価値は、ひとつに決まってしまうものではない。A 講義というような、学生には日常的なものでさえ、いつも変わらず、ごく普通にそこに存在していると信じてよいものとは、言いにくい。
完全に原文の意味通りとは言えないかもしれないが、あまり文意からズレてはいないだろう。
評論文に関しては、このように脳内で翻訳できると、読解のために必要な基本作業はほぼ完了する。どのような評論に関しても的確な翻訳ができるようになるには、かなりの読解経験が必要となる。
そして、評論の作者に対して「もうちょっと簡単な言葉で書けよ」と毎回毒づいている受験生諸君、上の原文と「翻訳」とを比べてみれば、作者がなぜ独特の評論用語で書くのかが分かるのではないか。
そう、評論用語を用いた方が字数が少なくてすむ。漢語を用いた方が情報を圧縮でき、短いスペースで必要な内容を述べることができ、文章に簡潔さとスタイリッシュな印象を与えることができるのである(英語の「名詞構文」にもこのような効果がある)。書き言葉がいつも話し言葉と離れた形になっていくのは、文を記すための媒体(石とか粘土板とか、パピルスとか紙とかハードディスクとか)のスペースの制約などの物理的原因があるのであって、仕方ないことなのである。長い文を石に彫るのは大変でしょ。
だから、評論文の読解というのは一種の「暗号解読」なのだ。作者が圧縮して表現した文を、受験生の皆さんが解読(デコーディング)するのである。けっきょく、英語などの外国語と同じやね。
さて、このように「解読」しながら適度に速読もし、評論の出題文全体を時間内にひととおり読み終えることができるようになったとしよう(繰り返しになるが「もうそんなことはできる」という優秀な医学部受験生諸君は、適度に読み飛ばすこと。諸君の中にはあまりいないかもしれないが、今は評論文を時間内に読みこなすのに困難を感じている受験生のために、Q氏はこのブログを書いている)。
次に、共通テストの評論なら評論の問題とどう取り組むかについて、長年の国語指導経験からコメントさせてもらいたい。
次のような要領で問題を解くのが、やはり一番安全かつ合理的なのではないかとQ氏は思っている。
①まず息を止めるくらい集中して、出題された文章全体を一気に読む。ただ速読するのでもなく、不必要な箇所まで脳内音読するのでもなく、今までの記事でQ氏が述べたように、緩急をつけながらなるべくスピーディに読む。
②その際、文章を必ず理解する。理解のために、適宜サイドラインを引きながら、文章を「構造化」して読むのもよいだろう。が、ゆっくり線を引いていると、それだけでも時間を食うから、過去問の練習の際に、自分なりの「印のつけ方」を決めておくとよい。
③読みながら「どこに何が書いてあるか」を記憶する。読みながら、意味段落ごとに頭の中で「まとめ」をやれるようならば、かなり現代文が得意な人だろう。
④本文を読み終わってから、初めて問題文に取りかかる。「何を聞かれるかをあらかじめつかむため、先に問題から読む」という人が多いが、時間のムダである。本文がちゃんと読めていれば、問題は本文のあとに見た方が頭に入りやすい。「問題文を先に見る」という人は、本文を理解できる自信がない人(「ヨマヌ真理教」信者の疑いあり)だが、本文を理解できていないのなら、問題文を先に見ようが本文のあとに見ようが、どのみち大した高得点は取れない。ざんねんでした。ものごとは、何事もまず正攻法でやるものなのである。
⑤問題の選択肢ひとつひとつを詳細に検討し、選択肢の各部を本文と照らし合わせる。このやり方については、別途述べる。選択肢を本文と照らし合わせるときに「あ、この話はあの辺に書いてあったな」という、本文に関する「土地カン」が必要になる。だからこそ、③で述べたように、読みながら「どこに何が書いてあるか」覚えないと、本文に戻れないのである。
⑥上の⑤のように本文に戻るときには、ものすごい「ナナメ読み」をやる。この時にいちばん「速読」し、数行をザーッとなでるような読み方をして、目当ての場所にたどり着くようにする。たどり着いたら選択肢と合うかどうか、少しじっくり読んで検討する。問題の選択肢と本文を照合する時には、日ごろ訓練した「スーパー速読」を使えるようにしておくと、めちゃくちゃ快調に解けるぞ。そこまで速くは読めない諸君も、本文に適宜戻って選択肢の根拠を確かめる作業は、欠かさないようにしよう。
⑦どの問題も選択肢を二択まで絞れれば勝利は間近。二択からの絞り込みには注意が必要だが、そこで失敗しなければ、満点近くが狙えることも多い。この絞り込み方については、またね。
以上のような「ものすごくオーソドックスなやり方」が、やはり一番効果が高い。変な「ウラ技」を開発しようとしても、特別にカンのよい人以外は、労多くして実り少ない結果に終わりやすい。あんまり、変な解き方は考えない方がいいと思う。
またまた紙数が尽きた。次週はまず、「国語の問題全体(第1問~第4問)の解き方、解答順序」について検討しよう。