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共通テストの国語(14) 裏ワザは効くのか②

2023年5月14日 勉強方法

共通テスト国語の選択肢だけ読んで、正解にたどり着く「裏ワザ」は有効なのか…というのが前回の話題だったが、意外なことに(?)「ある程度有効」というのがわたくしQ氏の判定である。巷に出回っている「裏ワザ本」は、選択肢問題の出題者心理をかなりよく研究しているが、

「出題者の心理を読む」

ことは、択一式試験に限らず、およそ試験というもの一般に臨むさいに必要な事柄だからである。

以前「特に自分が詳しくない分野では、能力や経験が少ない人ほど、自分の能力を実際以上に高く見積もりやすい」という「ダニング=クルーガー効果」の話題を出したが、

身のほどを知るということ – オンライン医学部予備校

ほとんどの受験生は、自分の苦手な教科・科目に関して、出題者の意図を完全には読み取れないものである。

「これは三角関数の合成の問題だな」「この問題は知覚動詞構文の理解を試したいんだな」など「題意が読める」受験生は、試験でほぼ必ず高得点を挙げる。そして「あ、ここはかなり高度な引っかけだな」などまで読める受験生ならば、ほとんど作問者の立場を追体験できているわけで、そういう「クロウトな」受験生が試験で落ちることは、まずない。

が、多かれ少なかれ、どの受験生も学習途上なわけだから、100%の自信を持って作問者の意図に迫れるわけではない。そこで受験生と出題者の心理戦が生まれるのであって、そのポーカー顔負けの「駆け引き」ができるほどその科目を勉強し、理解している受験生ならば、ただちに老練な出題者に「カモられる」ことはない。

(うまい出題者には、Q氏もカモられることがまれにある。題意となる事項を理解しているかどうかというレベルを超越し、ただただ巧みに受験生の盲点を突く「よくできたミステリー小説なみの見事な引っかけ」を仕掛けてくる出題者というのはたまにいて、受験生心理の空白を非常にうまく読んでくる。そういう問題を出されると受験生はひとたまりもないが、講師のQ氏はむしろ「敵ながらあっぱれ」と、そういう問題を作った先生に会いに行き、握手を求めたくなる。大学入試センターの試験には、その種の巧みな出題が非常に多いですよ。)

が、大部分の受験生は出題者の気持ちになるというような境地には至れないまま、タイムリミットを迎えるのである。そこで手ぶらで戦いに出、問題によっては100%近い確率で引っかかる。だからこそ、あまりにも出題者の意図、出題者心理を気にしない受験生は、どんどんお金を巻き上げられていく詐欺の被害者と同じく、一方的に苦境に立たされるのである。

だから、時間と心の余裕があれば、津田秀樹氏の『センター試験 裏ワザ大全』シリーズを古本で入手して、研究してもよいだろう。共通テスト国語だけでなく、国語の選択肢問題では、

「正解となる選択肢には本文の言葉が含まれず、本文を理解できている人にしか分からない『言い換え』が施されているが、誤答となる選択肢には、受験生を誘導するために積極的に本文の表現が使われている」

などは、かなり見え透いた「あるある」である。この特徴を押さえただけでも、国語の選択肢問題は解きやすくなるかもしれない。

が、すべての問題を選択肢だけから解く…というのは、やはりおススメできない。当然と言えば当然だが、選択肢だけから正答を探す方法は「出題者の意図と心理を研究し尽くし、逆手に取る」ことに意義があるのに対し、ほぼ唯一、国語のどんな問題にも共通する出題意図「ちゃんと本文を読み、理解したうえで答えなさい」だからである。

センター試験時代に『裏ワザ大全』は案の定、出題文を読まない「ヨマヌ真理教」信者のバイブルに使われていたようだが、あらゆる国語の試験をそれで乗り切ろうとするのは、同じくセンター時代に一部でささやかれた「センター数学の問題は、空欄に適当な数を当てはめていくだけで解ける場合がある」という「数学の裏ワザ」と同様、やはり出題意図から悪い方に逸脱した「邪道」であると言わざるを得ない。

こういう裏ワザがはびこってしまうから、そもそも共通テスト導入当初、国語と数学には記述式を導入しようという話だったのだと思う。

(結局、その記述式構想は骨抜きにされてしまい、共通テストは科目や領域によっては、センター試験とほぼ全く一緒の「変えた意味がない」ものになっているが、共通テスト「改革」の意義にはまだ見えていないところもあるので、その話題はまた別の機会に触れたい。)

選択肢式問題を選択肢だけから解く「裏ワザ」は、鋭い受験生には応用できるかもしれないし、何よりも「選択肢式・マーク式の試験」の矛盾点をあぶり出す、逆説的な「解法」として評価できると思う。が、もちろん依存は危険だし、いわゆる健全な常識の持ち主は、裏ワザに頼ろうという発想は持たないだろう。それでいいのである。

が、コチコチの「常識」に固まった人に対しては、裏ワザを提示して択一式試験の「穴」を示すショック療法も必要かもしれない。そのくらいである。

だから、国語の択一式に関しても、受験生は邪教「ヨマヌ真理教」(なんか、Q氏はこの宗教と戦う人権派弁護士みたいになっているが)の誘惑を退け、まず正攻法で本文を読む。そして、正攻法で解く際の参考として、選択肢に含まれるある種の「クセ」を見抜こうとする…というのがよいと思う。

固定化した常識を疑うために、奇をてらった見方も時には大いに必要だが、問題への対処に関しては、けっきょく「正攻法」と「中庸(ちょうどよい真ん中を保つ)」が最も効果的であることが多い。

というわけで「裏ワザ」についてのQ氏の総合判定は悪しき常識に対しては効能アリ、ただ主な解答方針としては使わない方がよい」である。

次回からは、引き続き評論を題材に、具体的な選択肢の検討方法に入ろう。